始めに

街中に溢れ出ているグラフィティ・アート。現在、特有のカルチャーに沿って流動するロンドンの街に、当たり前のように存在している。アーティストにとってストリートは、無制限のキャンバスだ。街のあちこちで、ポスターや法人広告が、我々の目をどれだけ惹き付けられるかを競い合っている中、グラフィティ・アートも負けじと顔を出す。しかしカウンター・カルチャーと言われるイリーガル (犯罪行為) の世界で、彼らは何を思い、何を求め、そして何故リスクを背負ってまでストリートに描いているのだろうか... その答えを探すべく、私は新たなフィールドへと手を伸ばした。長い時間を費やし、沢山のグラフィティ・アーティストと出会い、生の声を聞いてきた。私がロンドンに住み始めて7年が終わろうとしている今、この地で培ってきたグラフィティに対する私の想いを皆さんに伝えようと思う。

きっかけ

私がグラフィティに興味を持ち出したきっかけは、1999年に BANKSY というアーティストのステンシルワークを見た時だった。凄い衝撃を感じたのを覚えている。彼のワークは繊細で、被写体がリアルに表現されていた。尚かつそのアートには強いメッセージと、無邪気な遊び心が残されているのだ。彼のステンシルから湧き上がるその深い意味に、私は魅了された。それ以来外出するときには必ずカメラをバッグに入れ、ストリートに描かれる多種多様なスタイルのアートを収め続けている。描いては消され、消されればまた描く。その時その場所でしか発見できないものだからこそ、ストリートアートは希少価値の高いものであると私は格付けたい。そしてその瞬間のすべてを記録していくということは、将来私の財産になると信じ、シャッターを押す。
写真 : BANKSY @ Clerkenwell Road EC1

グラフィティが生み出すもの

もともとグラフィティとは、NY で発祥した DJ / MC / ブレイクダンスに並ぶヒップホップ・カルチャーの一つである。しかしこの4大要素の中で最も異なる点は、法律で認められていない "アート・クライム (芸術犯罪)" だということ。しかし彼らは思うがまま、商業的メッセージに対抗するかのように、自らの存在をアピールしてゆく。その手法をとして Graffiti という文字通り、落書きやイタズラを施す者もいるが、それとは裏腹に、デザイン性に優れているもの、ワーク自体にメッセージ性があるもの、純粋に描くことが大好きで、ストリートをエキシビジョン・スペースと捉え、自分のワークを世に出すものと様々だ。犯罪を正当化するつもりはないが、グラフィティは現在ロンドンの街並みを形成する上で、立派な材料の一つとなっているのは間違いない。
写真左上 : Swoon / 左下 : Torstirs, Space3 / 右上下 : Unknown Artists

進化するグラフィティ

ライターの使うスプレーは、高度なスキルを要するものである。80年代初頭、スプレーをいかに華麗に使いこなすかが、グラフィティとしてのアビリティーであった。しかし90年代後半、ステンシルやステッカーが流行り出し、誰もが簡単に BOMB (町中に描く行為) できるようになる。時代の流れと共に、ライターもコンピュータを使って作品を創る事が増え、その結果、多数の若者が興味を持ち、触発され、タギングや人物から、アブストラクトやキャラクターなど、多種多様でアーティスティックなものへと変化していった。現在はストリートのみならず、フライヤーやポスター、店のシャッター、バーの壁、レコード・ジャケット、ファッション・ブランドとのコラボレーションなど、従来では考えられなかったグラフィティ・アートの商品化が進み、それ故にビジネスへと展開し、ストリートアーティストとしての質も変化してきている。
写真上 : Featura2000 / 左下 : D*face / 右下 : El Chivo

世間の反応

グラフィティに対する世間の反応はどうだろう? 世界的にファンが増え、受け入れ態勢にあると思われる。その証拠に、現在世界中で出版されているグラフィティに関する書籍は、各国で人気を集め、売れ行きは好調。その結果、シリーズ化されたものや、国別、アーティスト別などのカテゴライズもされて、大々的に出版され続けている。その他、グラフィティに関するウェブサイトやグラフィティ・カルチャーの映画化、ファッション・ブランドとのコラボレーションなどにより、グラフィティ = トレンディーという、一般の人々の解釈が強くなってきている。これに伴い、世に自身の作品が出回り知名度が上がること、利益が発生することによって、ライター達もアーティストとしてのプロ意識が高まってきている。近い将来、グラフィティ・アーティストという職業が確立されるときがくるかも知れない。
写真左上 : Street Logos (出版 Thames & Hudson) / 左下 : INSA with OKI-NI / 右上 : D*face / 右下 : 映画 BOMB THE SYSTEM ポスター

様々な矛盾

グラフィティに対する人々の共感度は確実に上々しているが、やはり世はアート・クライムを許さず、ストリートで見受けられるアートは、アートとして認められていないのが現状である。それはまず第一に、イリーガル行為だということ。そしてカウンター・カルチャーというダークサイドにあり、街を汚すイメージ。しかし先程述べたように、ビジネス的要素に関われば、人々はこのアート・クライム出身の作品に賛成するのも事実だ。ここで私は一つ疑問を感じる。もし一枚数千万円する絵を描いている、正統派のアーティストがストリートに描いたら、そこに価値は生まれ、人々は立派な作品として認めるのだろうか?そんな現金な話を私は許せない。どんなアーティストだろうともバック・グラウンドに捕われず、高度なスキルとセンス、表現力を重視し、良いものは良いと認識できる目を世の人々に持ってもらいたい。
写真 : グラフィティ出身ペインター Conor Harrington

The writer is the Artist

ここで私は、The writer is the Artist “グラフィティ・ライターは、完全なるアーティストである” と格付けをしたい。そしてストリートに描かれる様々なアートは、時代の流れと共に現時点に存在する、"現在" を強く表したものであるということ。パターン化されたこの世の中に刺激を与え、躍動感溢れる要素を創りあげている、それがグラフィティだと私は思っている。
写真 : BANKSY @ Rivington Street EC2

 

Written by Toshimi Takaishi
All graffti photos by Toshimi Takaishi