現代の PV・MV の傾向

必然的な話ですが、PV (プロモーション・ビデオ) や MV (ミュージック・ビデオ) 業界の動向は、音楽の流行にとても左右されます。世界中でダンス・ミュージックが話題になってきた90年代中頃、リスナーは、様々なジャンルの音楽を開拓していくようになりました。それ故に、従来人気のあったロックやポップスが低迷していったのです。そして新しいジャンルの音楽が、チャートを賑わすようになっていくと共に、インディーズの流通が目覚ましく発展していきました。それと同時期、映像機材の大衆化によって、PV や MV も低予算制作が可能になり、新しいアイディアを持つ、才能あるクリエイターが、インディーズ・アーティストとセットで、世の中に出回るようになりました。したがってクリエイターは、アーティストと同じように、リスナーに認識され、ある意味 「クリエイターのブランド化」 が近年の傾向となっています。

Directors Label ( ディレクターズ・レーベル)

「クリエイターのブランド化」 という傾向を、世界中にしらしめた DVD が、2003年ダイレクターズ・レーベルから発売されました。これらは、MV を監督別にカテゴライズし、作品集としてシリーズ化されています。以前 MV の著作権は、アーティストのものとされていましたが、この発売は、監督にその権利が移行したことを示し、MV 自体に芸術的な要素があることを決定づけました。しかし日本は、未だレコード会社に依存しているので、このような形態の DVD の発売は、当分先になるでしょう。

参加ダイレクター : Spike Jonze (スパイク・ジョーンズ) / Chris Cunningham (クリス・カニンガム) / Michel Gondry (ミッシェル・ゴンドリー) / Mark Romanek (マーク・ロマネック) / Jonathan Glazer (ジョナサン・グレイザー) / Anton Corbijn (アントン・コービン) / Stephan Sednaoui (ステファン・セドゥナウィ) Website : http://www.d-label.jp/

映像機材の発達と他メディアとのコラボ

映像機材の発達により、MV の撮影や編集は、技術的な進歩に、敏感に反応しています。80年代から90年代前半は、一般的にフィルムでの撮影が主体でしたが、その制作には、多額な予算が必要でした。しかし90年代半ばから、ビデオの小型化と民生化により、誰でも MV が撮れる時代になりました。現在ではビデオでも、フィルムの質感やクオリティーを再現できるようになっています。これは予算の少ないアーティストでも、MV を制作することができ、更にプロモーションができることを意味します。そして実写だけに留まらず、アニメーションや CG とのコラボレーションが可能になったことも、大きな変化でしょう。ここからは具体的な例を挙げつつ、ご紹介します。

 

Motion Control Camera

モーション・コントロール・カメラは、クレーンと連動しており、コンピューターにカメラの動きを記憶させ、被写体を同じ画面上に、何度でも合成させることが可能です。例えば、ミシェル・ゴンドリー監督は、積極的にこのカメラを導入しています。Kylie Minogue (カイリー・ミノーグ) の 『Come Into My World (カム・イントゥー・マイ・ワールド)』 では、彼女が何人も同時に画面上に現れ、そのカメラでしかなしえないヴィジュアルを、実現させしました。日本では、Dragon Ash (ドラゴン・アッシュ) の 『Life Goes On (ライフ・ゴーズ・オン)』 で、須永秀明監督が初めて使用して話題になりました。

 

映像 : Come Into My World / Kylie Minogue

Time Slice

タイム・スライスというテクニックは、映画マトリックスで一気に世界中に広まり、MV 業界でも使用され始めました。撮影時、被写体の周りに何台ものカメラを配置して、時間差で高速撮影するというものです。シーンを一時停止したような効果を得る撮影方法です。CG の使用なしに、実際の被写体を、立体的で不思議な空気感に閉じ込めるその手法は、映像業界において大きな発明でした。左の動画、ミシェル・ゴンドリー監督作品 The Rolling Stones (ザ・ローリング・ストーンズ) の 『Like A Rolling Stone (ライク・ア・ローリング・ストーン)』 では、その効果と共に、モーフィング (画面上の別々の被写体を、徐々に変えていく手法) を同時に使用し、まさに新しい MV を演出しています。

 

映像 : Like A Rolling Stone / The Rolling Stones

アニメーションと CG

CG やアニメーションは、MV が世の中に出回る前から、独自に発展してきました。特にアニメーションに関しては、それぞれの国で研究され、どの国でも古い歴史がある映像として認識されています。その中でも日本のアニメーションは、世界的に絶大な評価を受けており、1996年テクノ DJ 兼プロデューサー KEN ISHII の 『EXTRA(エクストラ)』 (森本晃司監督) で、独特のアニメタッチと電子音楽の融合として、世界を唸らしました。そして2003年、Daft Punk (ダフト・パンク) とアニメ 『銀河鉄道999』 の著者・松本零士がコラボレーションした 『インターステラ5555』 では、MV の要素だけでなく短編映画、そしてアルバムのジャケットデザインまで手掛けることで、全てのプロモーションを成し遂げました。

 

映像 : One More Time / Daft Punk

MV ディレクターたち

ダイレクターズ・レーベルでフィーチャーされている監督以外にも、MV を制作する傍ら、映画監督や写真家として、幅広く活躍している監督がたくさんいます。そして彼らの何人かは、映像職人としてだけでなく、マルチな才能を開花させています。ここからは、大御所の監督から、最近特に注目されているクリエイター紹介していきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

写真 : Mark Romanek (マーク・ロマネック)

Joseph Kahn (ジョセフ・カーン)

MV、PV 業界のカリスマ的存在で、特にアメリカのアーティストに絶大な信用があります。そのテイストはハリウッド的であり、CG を駆使して、実写とうまくマッチさせています。そして楽曲の雰囲気やテンポを、十分に生かした演出が見え受けられます。どんな音楽のジャンルにも柔軟に対応し、演出するその姿勢は、彼のキャリアを物語っています。2003年、ラッパー Eminem (エミネム) の 『With Out Me (ウィズアウト・ミー)』 の MV で、MTV やグラミー・アワードなど、いくつもの賞を受賞しました。HP にて彼の作品を観ることができるので、是非アクセスしてください。

Website : http://www.josephkahn.com/

映像 : Without Me / Eminem

David LaChapelle (デビッド・ラシャペル)

アーティスト写真をメインとした写真家。作品は、洗練された色使いと派手さで、演出が凝っています。写真家としての活動もさることながら、2000年に入り、精力的に映像方面にも着手し始めました。強い個性を感じさせる写真とは裏腹に、映像ではスタイルにこだわらず、たまに実験的で、毎回テイストが違うという魅力があります。2005年ドキュメンタリー 『ライズ』 を無事仕上げ、映像作家としての名も世界に知らしめました。

 

Website : http://www.davidlachapelle.com/

映像 : Those Sweet Words / Norah Jones

Dave Meyers (デイヴ・メイヤーズ)

生粋の MV ダイレクターとしてそのキャリアを築き、手掛けたアーティストは、Janet Jackson (ジャネット・ジャクソン) JenniferLopez ( ジェニファー・ロペス) PINK (ピンク) など名前を挙げたらキリがないです。特に、ヒップホップ史上最強の女性 Missy Elliott ( ミッシー・エリオット) の作品を手掛けることが多く、2003年 『Work It (ワーク・イット)』 で MTV ベスト・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。どの作品もアーティストの顔を全面に押し出し、一度観たら楽曲と共に脳裏に焼き付くという印象的なものです。


映像 : Work It / Missy Elliott

Mike Mills (マイク・ミルズ)

90年代のストリートシーンで活躍し、デザイナーとして Sonic Youth (ソニック・ユース) や Beastie Boys (ビースティ・ボーイズ) のジャケット・デザインを手掛けたことによりカリスマ性が高く、そして映像作家であり、尚かつミュージシャンでもある、マルチ・アーティストです。映像では、NIKE (ナイキ) や GAP (ギャップ) のCMを制作、ショートフィルムにも精力的に着手しています。2005年待望の長編映画 『サムサッカー』 をリリースし、大きな反響を呼びました。彼の映像作品は、日常をひたすらリアルに、そして被写体を等身大で写し、どこか寂しさの漂うノスタルジックなテイストが常に感じられます。

 

映像 : All I Need / Air

Roman Coppola (ロマン・コッポラ)

かの有名なコッポラ家の一族の息子。CM やMV をメインに制作すると共に、2001年映画 『CQ (シーキュー)』 にて、初の映画監督を担当しました。父親のフランシス・F・コッポラや、その娘のソフィア・コッポラのスタイルとは全く違った個性を打ち出し、注目を浴び、才能の多彩さを十分に披露しました。これから更に MV 業界で活躍していくことが予想されます。


映像 : 12:51 / The Strokes

 

Shynola (シャノーラ)

ロンドンを拠点に、4人のアーティストからなる映像制作グループです。基本的にアニメーションや CG をメインとして、ショートフィルムや CM、MV などを制作し、多数の賞を受賞しています。キャラクターが頻繁に登場する作品は、ポップで愛着があり、しかも全体的にクリエイティブな香りがする作風に仕上げているところが素晴らしいです。

Website : http://www.shynola.com/

 

映像 : Move Your Feet / Junior Senior

高木正勝 (たかきまさかつ)

京都府在住の若手アーティストです。エレクトロニカを基本にした音楽創作活動と共に、映像制作やイラストレーションも、自ら手掛けてしまうというその才能には、毎回脱帽させられます。世界中で定期的に、アート・ギャラリーでの展示会を行っています。日本では、UAやコーネリアスとのコラボレーションを成功させ、今一番熱いマルチ・アーティストです。実写を加工し、水彩画のようなアナログ感のあるアニメーションが持ち味で、どのジャンルにも当てはまらない彼のテイストは、世界で注目されています。


映像 : ライト・プール / 高木正勝

宇川直宏 (うかわなおひろ)

映像演出家、デザイナー、DJ、文筆家、京都造形芸術大学教授など様々な顔を持つ、自称 「メディアレイピスト」 です。MV でのコラボレーションはボアダムス、砂原良徳、SUPERCAR (スーパーカー)、GUITARWOLF (ギターウルフ)、TOWATEI (トウワ・テイ) など、そうそうたる面子です。大学での同僚でもある、70年代ポップアート・イラストレーターの巨匠、田名網敬一とのコラボレーションを度々敢行しています。2004年の個展では、『ウズライブ』 と称し、会場で実際に鶉 (うずら) を使い、その鳴き声をサンプリングして、鶉のフリースタイルを体感するという実験的なパフォーマンスを開催しました。サイケでエキセントリックなスタンスは、彼自身がモダンアートでしょう。


映像 : オーディオ・セックス / テイ・トウワ

 

最後に...

2回に渡ってお送りしました MV 特集、お楽しみ頂けましたでしょうか ? 今回紹介仕切れなかった素晴らしい監督やビデオが、他にもたくさんあります。また随時良いビデオがリリースされ次第、特集していきたいと思いますのでお見逃しなく!

 

Written by Tomohiro Ichikawa